ジャガイモの皮むき

ジャガイモの皮をむくときによく思い出すことがある。初めて皮をむいた日のことだ。

それは小学校の家庭科の時間、もう名前も忘れてしまったおとなしい女子が一人「先生!」と手をあげた。その手には当時まだ珍しかったピーラーが。

「ジャガイモの皮むきにこれを使ってもいいですか?」とハキハキと質問した。

誰だったかなあ、男の先生だったと思う「いや、机の上に置いてある包丁を使いましょう」と答えた。でもさらにその女子は「お母さんは便利なモノは使った方がいいっていいました」とくいさがる。

今とは違い?小心者で周囲に合わせて生きていきたい派だった私にとって、その女子の言動は衝撃的だった。

先生のちょっと困った表情が思い浮かぶ。(誰だったか思い出せないのに)「今日は包丁の使い方の練習です。他のモノを切る時にも役に立つから包丁を使ってみましょう」と。

「わかりました」と席に着く女子、かっこよかったなあ。(誰だったか思い出せないのに)

気をとりなおして私は黙々とジャガイモの皮をむいた。向かいの席はちょっと憧れていたスポーツ万能の男子。その彼が「わあ、ショーコ(私のあだな)はさすがにはやいなー」と言った後「え?ちっちゃくない?で、皮厚すぎない?」と小声で言ったんだった。

あーいやだいやだ、自己嫌悪の思い出。だからさ、ジャガイモは皮ごと茹でてから皮は手でむくのがいいんだよね。

Naomi Shioya's WORKS

ようこそ ガラス作家・塩谷直美の 公式サイトへ