大人の階段

いつ自分が大人になったと実感したか、そんな話をラジオのDJがしていた。私には「そうだ、あの時だ」と思う瞬間がある。

大学生になって祖母と二人暮らしをしていた時期がある。家事というほどのことはしなかったけれど、朝ゴミを出すのは私の役目。お安い御用だ。

ある時ゴミを置いていると隣の奥さんに声をかけられた。「おばあちゃんと二人なんですってねえ」みたいな話。ボソボソと受け答えしているとお向かいの奥さんもは会話に入ってきた。その後に何人も。質問攻めかと思いきや、おば様たち自身の話が切れ目なく続く。井戸端会議に参加している私をもう一人の私が空から見てる感じ。「お~これが大人の女の処世術ってやつだな」と。

その後しっかりおばさんの仲間入り年齢に達してみると、ちょっとしたことで赤の他人に話しかけたくなるから不思議。例えば東京から高速バスで戻った時、車を置いた駐車場が交通量のやけに多い国道の向こうという状況。信号のある交差点は遠い。その時、同じバスだった若い女性は渡る気満々で車の切れ目を狙っていた。「ね、一緒に渡って」と彼女のジャケットの袖をつかむ私に、ビクッとしつつも「はい、行きますよ」と誘導してくれた。彼女にとっても大人になった日かもしれないねえ。

私の母のレベルになるとさらにスゴイ。バスを待っていると金色のトサカを天に向けて30センチもはやした青年が来たらしい。「それ堅いの?」と聞く老女。すると長身黒革ジャンの彼は「触ってみます?」とかがんでくれたんだって。「それがね~案外やわらかいのよ~」と母。

私はまだそこまでいっていない、と思う。まだ、ね。

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